最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)54号 判決
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(要旨)正当事由にもとずいて家屋賃貸借の解約の申入れがなされ、解約の効果が発生した以上は、その後たとい正当事由が消滅しても、解約は無効とはならない。
(説明)(一)本判決は、昭和二八年四月九日言渡の第一小法廷判決(本誌三〇号、民事事件〔一九九〕)と全く同旨の、しかも同一法廷による判決ではあるが、さきの判例が相当重要なものであるから、それを再確認したものとの意味において、紹介に値しよう。
(二) 事案は――本件家屋(二階建總坪数約三二坪)の賃借人である被上告人は、現住居の立退を求められている等右家屋を自ら使用すべき必要緊切なものがあるので、昭和二三年初頃賃借人たる上告人に対し、被上告人所有の他の家屋(建坪約一三坪)を代りに提供して、本件家屋の明渡を求めたが、上告人はこれに応じなかつた。他方上告人は、右解約申入当時においては、給料生活者で、家族四人と共に本件家屋に居住していたのだが、その後失業したため右家屋で金物類卸商を開業し、昭和二四年一月頃以降は会社組織にして右家屋をその営業用に充てており、また同年中長男に嫁を迎え孫も一人生れたので相当の大家族となつた。したがつて、これらの営業と家族との収容しうるような家屋を他に求めることは甚だ困難であるばかりでなく、営業所を移転することは営業上極めて不利でもある、という事情にある。なお、被上告人が前記解約申入に当り上告人のため提供した代りの家屋は、昭和二三年八月頃まで空家にしておいたのだが、上告人が明渡に応じないし、他方財産税納入の金員調達の必要に迫られたので、その頃やむなく他に売却して了つた。
(三) おおむね以上の事実関係にもとずき、原判決は、「以上の事情を考察するときは、控訴人はその居住のために本件家屋の明渡を求める必要があり、昭和二三年初代りの家屋を提供して被控訴人に本件家屋の賃貸借解約の申入をなし、且被控訴人には当時本件家屋から代りの家へ引移つても、その生活の方途を失い生活の破滅をたすという事情はなかつたのであり、しかも右代りの家屋は優に借家法第三条所定の予告期間六カ月をおおうに足りる同年八月まで空家にして、右期間満了当時被控訴人が何時でも引移ることができるようにしてあつたのであるから、控訴人の解約申入は正当の事由あり、本件家屋の賃貸借契約は昭和二三年六月末或は遅くとも同年七月末日終了したものと認めるのを相当とする。そして……その後被控訴人は本件家屋で金物類の卸商を始め家屋の半ばは営業に用い、且長男に嫁を迎え七人暮しとなり、現在では本件家屋に控訴人方四人の者を収容しうる余裕はなく、又営業上本件家屋より立退くことはその経済的打撃の少なからざることを諒察しうるところであるが、右の事情は控訴人の正当なる事由による解約申入の後に被控訴人方の都合上生じた事情であるから、控訴人の解約申入の正当な事由に影響を及ぼしえないものであることはいうまでもない」と断じ、被上告人の明渡請求を認容した。
上告理由は、正当事由の有無は、明渡請求訴訟の第二審の最終口頭弁論期日当時における事実関係にもとずいて定むべきであるとし、これと反する原判決を非難したが、本判決は先例に従い、要旨の通り判示して上告を棄却したものである。 (靑山調査官)